不動産の相続手続きは何から始める?流れや必要書類、費用、申請方法を詳しく解説

トチカツplus

2025.12.25

この記事のライター・監修者

柴田充輝

1級ファイナンシャル・プランニング技能士/社会保険労務士/行政書士/宅建士

柴田充輝

不動産を相続した場合、土地や建物、マンションなどの名義を相続人に変更する手続きが必要です。 これを「相続登記」と呼び、2024年4月1日以降は相続を知った日から3年以内に登記を行うことが義務化されました。 不動産の相続登記は、遺言書の確認や相続人の確定、必要書類の収集、登記申請など複数の手続きが必要になるため、順序立てて丁寧に進めることが大切です。 本記事では、不動産を相続した際の手続きについて、具体的な流れや必要書類、費用、申請方法までをわかりやすく解説します。

Point

  • 不動産の相続手続きは、遺言や遺産分割協議に基づき正確に進める
  • 相続登記の申請時には、複数の書類や登録免許税支払いの準備が必要
  • 相続手続きが複雑な場合は、司法書士などの専門家に相談すると安心

目次

  1. そもそも不動産の相続手続きは何をすべき?
  2. 相続登記とは
  3. 相続登記に必要な書類
  4. 不動産の相続手続きで必要な費用
  5. 相続登記の3つの申請方法
  6. 相続登記完了後に交付される書類
  7. その他の遺産を相続した際の手続き
  8. まとめ|相続手続きが不安な場合は専門家へ

そもそも不動産の相続手続きは何をすべき?

土地や建物、マンションなどの不動産を所有していた人が亡くなった場合、その名義を相続人に変更する手続きを行わなければなりません。 これを「相続登記」と呼びます。

2024年(令和6年)4月1日からは、自身が相続人であり、相続によりその不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を行うことが法律で義務化されました。 相続登記を行わずに放置すると10万円以下の過料(罰金)が科されるリスクがあるため、早めに対応することが大切です。
ここでは、不動産を相続した際に必要な手続きを下記4つのステップに分けてわかりやすく解説します。

STEP1.遺言書の確認

最初に確認すべきなのは、被相続人(亡くなった人)が遺言書を残しているかどうかです。 遺言書の有無は、相続の手続きや進め方を大きく左右します。
主な遺言書は、以下の3種類です。

3種類の遺言書
  • 自筆証書遺言:本人が手書きしたもの。開封前に家庭裁判所での「検認」が必要
    (自筆証書遺言書保管制度を利用する場合、検認は不要)
  • 公正証書遺言:公証人によって作成され、原本が公証役場に保管される方式
    (正本・謄本は遺言者本人に交付される)
  • 秘密証書遺言:内容を秘密にしたまま、遺言書の存在だけを証明してもらう方式

遺言書が見つかった場合は、相続人全員の反対がない限り、その内容に基づいて相続手続きを進めます。 遺言書がない場合は、次のステップへ進みます。

STEP2.遺言または遺産分割協議で相続人を確定

遺言書がなく、誰がどの財産を相続するかを具体的に決める必要があるときは、相続人全員で「遺産分割協議」を行い、分割方法を決定します。 遺産分割協議には、配偶者や子(直系卑属)、親・祖父母(直系尊属)、兄弟姉妹などの法定相続人全員が参加し、合意内容を遺産分割協議書として文書に残します

法定相続人の範囲は、被相続人の出生から死亡まで連続した戸籍謄本を取り寄せることで確認可能です。 この段階で相続関係を整理した「相続関係説明図」を作成しておくと、その後の手続きがスムーズになります。

STEP3.必要書類を収集・作成する

相続登記の申請には、被相続人や相続人に関する多くの書類が必要です。 被相続人の戸籍や住民票、相続人の戸籍や住民票、固定資産評価証明書など多岐にわたる書類が必要になるため、自身の状況と照らし合わせて必要書類を丁寧に確認しておきましょう。
詳しくは後述の「相続登記に必要な書類」をご覧ください。

STEP4.相続登記

必要書類がそろったら、法務局にて相続登記の申請を行います。
手続き自体は相続人本人が行うこともできますが、書類の不備や手続きの誤りで申請が何度も差し戻されてしまうケースも少なくありません。 スムーズに進めるためにも、司法書士などの専門家に依頼するのが安心です。

相続登記とは

相続登記とは、被相続人名義の不動産を、法定相続人や遺言で指定された人の名義に変更する手続きのことです。不動産の所有名義は登記簿に記録されているため、相続が発生した際は、その内容を変更しなければなりません。

また、相続登記は2024年4月1日から義務化されており、3年以内に正当な理由なく手続きを行わなかった場合は10万円以内の過料が科される可能性もあります。 相続登記を済まさないまま長期間放置すると、さらに相続が発生したときに手続きが複雑化し、不動産の処分や活用が難しくなる恐れもあるため、早めに相続登記を行うことが大切です。

単独名義で登記する場合(単独所有)

不動産の相続人が1人である場合や、遺産分割協議などで特定の相続人が所有することが決まった場合は、名義人を1人とする単独名義での登記を行います。

例えば、遺言書で「長男が自宅を相続する」と指定されているケースや、遺産分割協議で相続人の1人に不動産を引き継ぐことが決まったケースでは、この単独名義の登記が適用されます。

単独名義の登記は、次に解説する「共有名義の登記」に比べて所有権の所在が明確になり、将来的に不動産の活用や売却がしやすい点がメリットです。 なお、遺言によって法定相続人以外が不動産を取得した場合は、不動産取得税が課されるケースがあります。

共有名義で登記する場合(共有持分)

不動産を複数人で相続する場合は、それぞれの相続人の名義と持分(所有割合)を登記簿に明記して、共有名義での登記を行います。
例えば、「遺産を平等に分けたい」といった理由で、不動産を長男と次男がそれぞれ2分の1ずつ所有するといった形です。

しかし、共有名義の不動産は、売却や大規模改築などの「変更・処分行為」に際して共有者全員の合意が必要です。
「賃貸に出したくても出せない」「売りたくても売れない」など、将来的な手続きが煩雑になりやすいというデメリットもあります。 そのため、「将来的な活用を見据えて、相続のタイミングで単独名義にしておく」といった工夫も検討するのがよいでしょう。

相続登記に必要な書類

相続登記を申請する際には、被相続人と相続人に関する複数の書類を揃える必要があります。 遺言書の有無によって必要書類に違いがありますが、どちらの場合でも手続きには一定の手間がかかるため、早めに準備を進めることが大切です。

また、この段階で相続対象となる不動産に漏れがないか確認しておきましょう。 市区町村役場で名寄帳を取得すれば、登記簿に記載されていない不動産も含めて所有状況を把握できます

不動産の調べ方について詳しく知りたい場合は、別記事「【完全ガイド】相続財産の調べ方!不動産や債務など調査のポイントと注意点を徹底解説」を参考にしてください。

遺言書がある場合

遺言書がある場合は、原則としてその内容どおりに相続を進めます。 遺言によって相続人や配分が決まっているため、法定相続人全員の反対がない限り、遺産分割協議を行う必要はありません。

相続人は以下の必要書類を揃え、相続する不動産の所在地を管轄する法務局に相続登記を申請します。

書類 概要
遺言書 相続内容を示す本人の意思表示
自筆証書遺言の場合は検認済みである必要あり
被相続人の死亡時の戸籍謄本
または除籍謄本
死亡時の戸籍および出生から死亡までの連続したもの
被相続人の住民票の除票 被相続人の住所を確認するための書類
相続人の戸籍謄本 相続人の身分関係を証明する書類
相続人の住民票
または戸籍の附票
相続人の現住所を確認するための書類
固定資産評価
証明書
不動産の評価額を示す書類。登録免許税の計算に必要
登記申請書 法務局に提出する、登記手続きに必要な申請書


遺言書に基づく相続登記は、遺言書が無い場合と比べて必要書類が少なく、手続きをスムーズに進めやすいのが特徴です。

遺言書が無い場合

遺言書が存在しない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、誰がどの不動産を相続するか話し合いで決定します。 この結果をまとめたものが「遺産分割協議書」で、相続登記の際に提出する重要書類です。 協議書には相続人全員の署名と実印押印が必要で、一人でも署名・実印押印が欠けていると無効になります。

また、遺言書が無い場合は、遺産分割協議書に加えて以下の書類を用意しなければなりません。

書類 概要
遺産分割協議書 相続人全員で合意した内容をまとめた書類
全員の署名・実印での押印が必要
相続人全員の
印鑑証明書
各相続人の実印と一致することを証明する書類
被相続人の死亡時の戸籍謄本
または除籍謄本
死亡時の戸籍および出生から死亡までの連続したもの
被相続人の
住民票の除票
被相続人の住所を確認するための書類
相続人全員の
戸籍謄本
相続人の身元を証明する書類
不動産を相続する人の住民票
または戸籍の附票
名義変更の対象となる相続人の住所を示すもの
固定資産評価
証明書
不動産の評価額を示す書類。登録免許税の計算に必要
登記申請書 法務局に提出する、登記手続きに必要な申請書

不動産の相続手続きで必要な費用

不動産の相続手続きで必要な費用


不動産を相続する際には、いくつかの手続きで費用が発生します。 これらは相続登記を行うために必要な費用のため、あらかじめ把握しておくことで、スムーズな手続きができるでしょう。
ここでは、相続手続きに必要な費用と具体的な金額を解説します。

1.登録免許税

相続登記には「登録免許税」と呼ばれる税金がかかります。
基本的な税率は、不動産の固定資産税評価額の1,000分の4(0.4%)です。 例えば、評価額が2,000万円の不動産であれば、登録免許税は8万円となります。

ただし、贈与や交換、競売による不動産取得の場合は税率が1,000分の20(2%)です。 このように、取得方法によって税額が異なるため、あらかじめ取得方法を確認しましょう。

登録免許税の納付は、登記申請時に収入印紙で行うため、書類に貼り付けて提出する形式が一般的です。 なお、オンラインで登記申請をする場合は、電子(キャッシュレス)納付も可能です。

2.司法書士への報酬

相続登記は申請者本人が自分で行うことも可能ですが、書類の準備や法務局との手続きには専門的な知識が必要です。 こうした負担を軽減するため、多くの場合は司法書士に依頼して手続きを進めます。

司法書士に相続手続きを依頼する場合の報酬目安は、1件あたり5万~10万円程度です。 一般的に、報酬には登記申請書の作成や法務局への代理申請、必要書類の事前調査費などが含まれます。

ただし、費用は依頼する司法書士や、登記の内容(不動産の数や権利関係の複雑さ)によって異なるため、事前に確認しておくことをおすすめします。

相続登記の3つの申請方法

相続登記の申請は、法務局の窓口、郵送、オンラインのいずれかで行えます。 それぞれの特徴を理解し、状況に応じて最適な申請方法で手続きを進めましょう。

法務局の窓口から申請

もっとも一般的な方法は、法務局の窓口に直接申請書を提出する方法です。 窓口からの申請では、申請者本人や代理人(司法書士など)が窓口に出向き、必要書類を提出します。

提出した書類はその場で内容を確認してもらえるため、記載漏れや不備があればその場で指摘を受けられます。 担当者に質問しながら手続きを進められるため、初めて相続登記を行う方でも安心です。

郵送で申請

法務局で直接申請できない場合には、郵送での申請も可能です。 郵送の際は必要書類を揃えたうえで、管轄の法務局宛に郵送し、相続登記を申請します。
ただし、書類に不備があった場合は修正や再提出を求められることがあるため、提出前に書類を丁寧に確認することが重要です。

オンラインで申請

近年では、オンラインでの相続登記も可能です。 法務省の「登記・供託オンライン申請システム(登記ねっと)」を利用すれば、法務局に出向かなくても申請手続きを行えます。

オンライン申請のメリットは、法務局よりも柔軟に申請できる点です。 平日の8時30分から21時まで申請でき、電子署名とマイナンバーカードを使うことで、書類提出から手数料納付までオンライン上で完結できます。 ただし、添付すべき情報が電子化されていない場合、オンラインのみで申請手続を完結できないことがあるため注意が必要です。

また、事前に電子証明書や専用ソフトの準備が必要なため、オンライン申請に不安がある場合は司法書士への依頼も検討しましょう。

相続登記完了後に交付される書類

相続登記が完了すると、不動産の名義が正式に相続人へ変更されたことを証明する書類が交付されます。 これらの書類は、今後不動産を売却したり担保に入れたりする際に必要となる重要な書類です。

登記完了証

登記完了証は、相続登記が無事に完了したことを証明する書類です。 書面には、登記の受付番号や完了日などが記載されており、名義変更が正式に法務局の記録に反映されたことを示します。 手元に保管しておくことで、後日名義確認が必要になった場合にも役立ちます。

登記識別情報通知書

登記識別情報通知書は、新しい名義人が不動産の所有者であることを証明する書類で、従来の「権利証」に相当します。 通知書には12桁の英数字による識別番号が記載されており、不動産を売却したり担保に設定したりする際に必要です。 なお、登記識別情報通知書は再発行不可のため、紛失しないよう厳重に保管しておきましょう。

その他の遺産を相続した際の手続き

不動産以外の遺産も相続する場合には、各種手続きを行う必要があります。 預貯金や有価証券、農地や未登記家屋、さらには被相続人の債務など、財産の種類によって手続きの流れや必要書類が異なるため注意が必要です。
ここでは、不動産以外の遺産を相続した際の手続きについて解説します。

未登記家屋の場合

未登記家屋とは、法務局に所有権の登記がされていない建物のことです。
未登記家屋を相続した場合は、「表題登記」と「所有権保存登記」を行い、登記簿に正式に登録する必要があります。
表題登記は土地家屋調査士が担当するため、専門家に依頼するとスムーズに手続きが進められるでしょう。

また、納屋や別荘など長年未登記のまま放置されていた建物を相続した場合は、管轄の市区町村役場(東京都23区など一部地域では都税事務所)の固定資産税担当課に「現所有者変更届」を提出し、固定資産税の納税義務者を変更します(自治体によって書類の名称が異なります)。

農地の場合

農地を相続した場合は、相続登記完了後に市町村の農業委員会への届出が必要です。 農地法に基づく義務であり、相続からおおむね10ヶ月以内に届出を行わなければ、10万円以下の過料が科される可能性があります。
また、農業を継続する場合とやめる場合で届出内容が異なるため、事前に専門家や市町村の農業委員会に確認することをおすすめします。

預貯金の場合

預貯金を相続する際には、金融機関ごとに名義変更や解約の手続きを行う必要があります。 提出書類は、遺言書または遺産分割協議書、被相続人および相続人の戸籍謄本、印鑑証明書などです。

預貯金の相続手続きは銀行によって提出書類や流れが異なるため、まずは窓口で確認することが確実です。 ただし、相続手続きは来店予約が必須となる場合があり、1週間から1ヶ月程度の期間が空くこともあります。 そのため、最寄りの支店以外の予約状況もあわせて確認するとスムーズです。

有価証券の場合

株式や投資信託などの有価証券を相続した場合、証券会社や取扱金融機関に対して相続手続きを開始します。
相続人が証券会社の案内に従って必要書類を提出し、相続人名義の新しい証券口座を開設した後、被相続人名義の財産を移管するのが一般的な流れです。

なお、相続した有価証券を売却する際には、被相続人の取得費を基準に譲渡益が計算されます。
また、有価証券のなかに単元未満株や端株が含まれている場合は、手続きや連絡先が異なります。 これを見落とすと相続財産の一部が手続き漏れとなり、受け取り損失のリスクがあるため、詳細に調査を行うことが重要です。

有価証券の調べ方については、別記事「【完全ガイド】相続財産の調べ方!不動産や債務など調査のポイントと注意点を徹底解説」を参照してください。

債務の場合

被相続人が抱えている債務も、相続の対象となります。 負債が財産を上回る場合は、すべての財産の承継を放棄する「相続放棄」や、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続する「限定承認」の手続きを検討しましょう。

まとめ|相続手続きが不安な場合は専門家へ

不動産の相続が発生した場合は、相続人を確定させ、正確かつ早めに相続登記を行うことが大切です。 相続登記は義務化されており、放置すると過料が課される可能性もあるため、早めの対応が求められます。

不動産が複数ある場合や共有名義のケース、未登記家屋や農地を含む場合には、手続きが複雑になりやすく、個人だけで進めるのは容易ではありません。 こうした場合には、司法書士や土地家屋調査士などの専門家に依頼することで、書類作成や法務局への申請を確実に行うことができます。

不動産の相続登記や関連手続きに不安がある場合は、専門家に相談することで安心して手続きを進められます。 少しでもお悩みがある方は、下記よりお気軽にお問い合わせください。

記事制作協力:スターツ証券株式会社

この記事のライター・監修者

柴田充輝

1級ファイナンシャル・プランニング技能士/社会保険労務士/行政書士/宅建士

柴田充輝

厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融や不動産、相続などのメディアを中心に、これまで1,200記事以上の執筆実績あり。

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