相続において、賃貸物件は借り主・管理会社・銀行などの第三者が関わるため、相続の手続きが複雑になりがちです。 また、賃貸物件を相続するような人は、相続税が発生する資産家である可能性も高く、相続税の納税も意識する必要があります。 では、賃貸物件を相続した場合、どのように手続きを進めていけば良いのでしょうか。 この記事では「賃貸物件の相続」について解説します。
Point
- 賃貸物件を相続したら、まずは現状の確認を行う
- 賃貸物件に相続税評価額を軽減する措置がある
- 賃貸物件を相続したら敷金の返還義務も承継する
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目次
賃貸物件を相続するときの流れ
最初に、賃貸物件を相続するときの流れについて解説します。
現状の確認
相続財産に賃貸物件が含まれる場合、まずは賃貸物件の現状を把握することが必要です。
確認すべき主な項目は、以下の通りです。
- 管理会社および担当者
- 賃料や敷金の金額
- 借入金の有無と借入先の金融機関
また、賃貸物件では「継続中の事案」が存在する場合もあります。
継続中の事案とは、たとえば借り主から修繕や賃料減額を要請されている、もしくは貸し主から家賃の滞納を督促しているなどです。
こうした事案は管理会社が把握していることが多いため、管理会社に確認することが適切です。 もし継続中の事案があれば、相続人がそのまま引き継いで対応することになります。
相続放棄の検討
相続放棄とは、初めから相続人ではなかったとみなされる制度のことです。
相続放棄を選択すると、借金などのマイナスの財産だけでなく、現金や土地などのプラスの財産も一切相続できなくなります。
相続放棄を行うには、相続の開始を知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述することが必要です。
引き継ぐ人の決定
賃貸物件は、売却して現金を分ける場合を除き、できるだけ単独所有で引き継ぐことが望ましいといえます。 理由としては、共有物件では売却や建て替えなどに一定の制約があり、相続を何代かで繰り返すことで多人数の共有物件となり、売却などがしにくくなる恐れがあるためです。
遺産を分割する方法には、遺言による分割と遺産分割協議による分割の2種類があります。
遺言が残っている場合には、遺言に従って分けることが原則です。
遺産分割協議とは、相続後に相続人同士で遺産の分け方を自由に決めることができる話し合いのことを指します。 遺産分割協議は、遺言書がない場合、もしくは遺言書があっても遺言書とは異なる方法で分割したい場合に行います。
名義変更
引き継ぐ人が決まったら、名義変更の手続きを行います。
相続後の名義変更(相続登記)は、2024年(令和6年)4月1日より義務化されました。
2024年4月1日以降の相続では、相続によって取得したことを知った日から3年以内に相続登記を行うことが必要です。
準確定申告
準確定申告とは、被相続人(亡くなった方)がその年の1月1日から死亡日までに得た所得を申告する手続きのことです。 準確定申告の期限は、相続の開始を知った日の翌日から4ヶ月以内となります。
一般的に賃貸物件を保有していた被相続人は、生前に確定申告を行っていたはずです。 相続人は税理士に連絡して、期限までに準確定申告を行う必要があります。
債務の承継
賃貸物件を保有していた被相続人は、相続税対策として意図的に借入金(債務)を残していることが多いです。 賃貸物件の債務は、多くの場合、その物件に抵当権を設定して借り入れているため、賃貸物件を引き継いだ人が債務も承継することが一般的となっています。 抵当権とは、銀行などの債権者が担保物件から優先的に弁済を受けられる権利のことです。
ただし、賃貸物件の債務は、賃貸物件を引き継いでも自動的に承継されるわけではなく、承継するには銀行の了解を取ることが必要となります。 そのため、相続が発生して引き継ぐ人が決まったら、速やかに銀行へ相談し、手続き方法を確認することが望ましいです。
管理会社や保険会社への連絡
物件を引き継ぐ人が確定したら、管理会社や保険会社にも連絡します。
建物には通常、損害保険が付保されているため、保険会社を確認し、担当者に連絡をしておきます。
賃貸人の地位承継の通知
相続が発生すると、被相続人の賃貸人としての地位は、自動的に相続人へ引き継がれます。
この際、借り主の同意を得たり、新たな契約書を交わしたりすることは不要です。 ただし、一般的には家賃の振込口座などが変更されるため、借り主に対しては通知を行います。
なお、実務上は念のため、相続で引き継いだ相続人と借り主との間で覚書を締結しておくこともあります。
賃貸物件の相続税評価額

賃貸物件の相続税評価額は、マイホームなど自用の不動産よりも低く計算されます。
自用の不動産の相続税評価額は、土地は相続税路線価で求めた土地価格、建物は固定資産税評価額が原則です。
土地 = 自用地の価額(相続税路線価によって求めた価格)
建物 = 自用家屋の評価額(建物の固定資産税評価額)
賃貸物件の相続税評価額は、以下のような計算式で求められ、自用の不動産よりも相続税評価額が低くなります。
(土地)
貸家建付地の評価額
= 自用地の評価額 - (自用地の評価額) × 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
(建物)
貸家の評価額
= 自用家屋の評価額 - (自用家屋の評価額 × 借家権割合 × 賃貸割合)
借地権割合とは、地域ごとに定められた更地価格に対する借地権価格の割合(30~90%)のことです。
借家権割合とは、全国一律で30%となります。
賃貸割合とは、原則として相続時の入居率のことです。
賃貸物件を相続する際の注意点
この章では、賃貸物件を相続する際の注意点について解説します。
売却するなら期限を意識する
賃貸物件を売却する場合は、期限を意識することが必要です。
相続税の納税期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内となります。 納税のために物件を売るには、期限までに速やかに売ることが必要です。
また、相続税を納税した人は、譲渡所得(売却益)から一定額を控除できる「取得費加算の特例」を使えるケースがあります。 取得費加算の特例を利用するには、相続開始日の翌日から相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却することが必要です。
分割するまでの収益は相続人で分けることが望ましい
賃貸物件の相続では、相続開始から遺産分割までの賃料収入や維持費をだれが負担するかで揉めることがあります。 対応策としては、遺産分割が完了するまでの賃料収入や維持費は、法定相続割合で按分することが適切です。
承継者は返還敷金を用意しておく
賃貸物件を引き継いだ人は、被相続人が生前に借り主から預かっていた敷金について、返還義務も承継しています。
借り主は、貸し主の都合に関わらずすぐに退去する可能性があるため、物件を承継した人は早めに敷金を返還できるように準備をしておくことが望ましいです。
また、家賃の不払いがあり敷金で充当していた場合は、充当分の返還義務はないため、管理会社に家賃滞納の有無も確認しておく必要があります。
まとめ
以上、賃貸物件の相続について解説してきました。
賃貸物件の相続は、まず現状を確認し、相続放棄の検討や引き継ぐ人の決定などを進めていく流れになります。 賃貸物件の相続税評価額は、土地は貸家建付地による評価減、建物は借家権割合による評価減が適用されます。 注意点としては、「売却するなら期限を意識する」や「承継者は返還敷金を用意しておく」などが挙げられます。
賃貸物件の相続でお困りのことがあれば、下記よりお気軽にご相談ください。
この記事のライター・監修者

不動産鑑定士
竹内英二
不動産鑑定事務所および宅地建物取引業者である(株)グロープロフィットの代表取締役。不動産鑑定士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、住宅ローンアドバイザー、公認不動産コンサルティングマスター(相続対策専門士)、中小企業診断士。
土地活用と賃貸借の分野が得意。賃貸に関しては、貸主や借主からの相談を多く受けている。
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