メッセージ~スターツの免震技術の出発点~

阪神淡路大震災

免震について語る
スターツコーポレーション株式会社
取締役副会長 関戸博高

1995年の阪神淡路大震災から1週間後、現地に出向きました。それは建築技術者として、震災の被害の現状を見て、災害のひどさを肌で感じなければならないとの思いからでした。現地は大変悲惨な状態で、約6,000人の方が亡くなりました。国が定めた建築基準法に則って建てられたはずの建物が甚大な数で倒壊していました。
建物を造るうえで技術的な問題を超えて、あらゆる点で根底から考え直さなければならないと思いました。「国が定めた建築基準法を満たしたからといって、それを免罪符にする建物であってはならない。」

免震の技術開発

すぐに免震構造が採用できた訳ではありません。私は免震の技術開発プロジェクトチームを組織し、先端知識を持つ人材を総動員して研究開発にあたりましたが、それでも実用化レベルに到達するまで2年間待たなければなりませんでした。最初に免震工法での受注ができたのは1999年、竣工したのは2001年で阪神淡路大震災の6年後の事になります。ただ、免震工法によるコストアップと収益性のバランスがネックとなり、それ以降も年間1棟程度の受注に留まらざるを得ませんでした。
転機は6棟目の江戸川区の免震マンション。2005年に開発した免震のコストダウン工法である「高床免震」の第一弾です。免震装置自体の低廉化と基礎工事を削減することでコストダウンを図りました。この時、一般の免震構造と「高床免震」による免震構造との建築費の比較を行ったところ、「高床免震」の大きなコストダウン効果が明らかとなりました。通常の免震構造で5億円程の規模で15~20%の建築費アップとなってしまうところ、「高床免震」工法では5%~8%程度に抑えることができたのです。この工法で特許も取得しました。

井戸のちから

スターツCAMの高床免震はただ単に免震装置のある建物ではありません。万が一来るかもしれない大地震に備えて、建築されるお客様には井戸の設置をお願いしています。非常時にはかまどになるベンチも設置しています。災害時には建物が壊れないだけではなく、井戸の水を地域コミュニティーに提供し、防災の拠点となる建物を目指しています。建物が壊れなくてもライフラインを絶たれたら生活ができません。ペットボトルで飲み水は配給されるかもしれませんが、飲料水のみならずトイレや風呂が使えないのは困ります。特に、震災後の避難所生活では水が不足しています。水が飲めなくなることに加えて、避難生活を送られる方々が水を使うトイレを我慢してしまい、俗に言うエコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症)が発生してしまうという二次的な災害も報告されています。
別の観点として、大災害に限らず、街角に井戸があり日常的に人が集える場所があるということは、地域のコミュニティーの形成を促し、地域や街の資産を守ることになります。凄惨な事件が相次ぐ社会状況の中で、地域を守る意思を地域自身が持ち、小さいながらも地域でコミュニティーとしてつながることが最良の防災対策だと考えます。免震建物に井戸を設置するということはマンションという個人の資産でありながら、街や社会に対して開いているという信号でもあります。
また、井戸の設置を薦めていく中で分かってきたこともあります。井戸や地域貢献に共感して頂けるお客様が実に多いことです。建築するお客様は経済合理性を追求することが全てではないのです。これは建築が本来持つ公共性や社会性が地域に貢献する一例で、私たちの仕事が社会貢献として誇りに感ずる瞬間です。

全ての住まいを免震へ

スターツCAMの「高床免震」は中高層の建物にはコストダウンに適していますが、戸建住宅や低層の小規模な建物ではメリットが出しにくい工法です。防災の観点から言えば、数の多い戸建住宅や低層の建物を免震化するのが理想的です。そこで2007年5月に清水建設(株)の子会社であった免震装置メーカーのエス・テク・リソース(株)をスターツグループの一員として迎え入れ、小規模物件に特化した免震の技術力を活用できるようになりました。今後はお客様からの要望さえあれば、容易に免震を採用できます。弊社としても、全ての住まいを免震にできるよう、土地オーナー様に免震工法を積極的にご提案していきたいと思います。

建築技術と金融工学の接点でのリスクマネジメント

近年、地震のリスクに対して、その安全性をPMLという指数で情報開示できるようになりました。
PML(Probable Maximum Loss)とは予想最大損失率と訳され、約500年に1回発生するような巨大地震が発生した際に、どれくらいの損失が出るかを確率論的に表現した指数として、保険業界で広く使われています。もちろん免震建物は5%前後となり、この指数が極めて低く、壊れる確率が非常に低いことを意味します。PMLは資産の安全性の格付けであり、その不動産価値の高さを示します。従来このような建物の資産としての安全性については、なかなか表現しにくかったのですが、地震のリスクに対して新しい言葉を得たと言う意味で大変画期的なことだと思います。ここが、地震に対する建築技術と金融工学の接点であり、あらゆる観点から資産を守るための総合的なリスクマネジメントの最前線となるのです。

全国に免震を普及する

弊社では免震を全国に普及したいとの思いから、各地の工務店や建設会社を対象にパートナーズ制度を創設して、免震技術の提供を行っています。免震工法を導入するためには構造設計・免震装置の仕入れ・施工のための技術・竣工後の維持管理・営業手法など乗り越えなければならない様々な課題があります。これらのノウハウをトータルにパッケージ化して、高床免震パートナーズに提供しています。こうして免震工法の理念に同意していただける企業を増やし、全国各地へ免震住宅の普及を図っていきます。
今、オール電化や耐震改修には多くの助成制度があるのに対して、免震には大きな助成制度がありません。免震のパートナーを増やし、チームとしての力を持たせ、社会に広く認められる状況を作り、免震普及のための助成金を含めた社会的な環境整備に取り組みたいと思います。